2 décembre 2011
孔雀
これは異本「伊曾保(いそぽ)の物語」の一章であ る。この本はまだ誰も知らない。
「或(ある)鴉(か らす)おのれが人物を驕慢(けうまん)し、孔 雀(くじやく)の羽根を見つけて此処かしこにまとひ、爾 余(じよ)の諸鳥(し よてう)をば大きに卑(いや)し め、わが上(うへ)はあるまじいと飛び廻れば、諸 鳥安からず思ひ、『なんぢはまことの孔雀でもないに、なぜにわれらをおとしめるぞ』と、取りまはいてさんざんに打擲(ち やうちやく)したれば、羽根は抜かれ脚は折られ、なよなよとなつて息が絶えた。
「その後(のち)またまことの孔雀が来たに、諸鳥 はこれも鴉ぢやと思うたれば、やはり打ちつ蹴(け)つ して殺してしまうた。して諸鳥の云うたことは、『まことの孔雀にめぐり遇(あ)う たなら、如何(いか)やうな礼儀をも尽さうずるも のを。さてもさても世の中には偽(に)せ孔雀ばか り多いことぢや。』
「下心(したごころ)。——天 下(てんか)の諸人(し よにん)は阿呆(あはう)ば かりぢや。才(さえ)も不才(ふ さえ)もわかることではござらぬ。」
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